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記事一覧

水平線へ

にぎやかな接吻にぎやかな愛の告白を受けながら水平線へ走って 走ってここでちょっとお報せを私は泣きたかったのです何を泣きたかったのか聞いていただけますか?(でも まだ 走っている途中なので いえません)水平線へ愛と接吻と思いやりの――憧れがマグネットのように強すぎる夕ぐれです...

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静けさの復習(67)

 郵便受けに封書かなにかが落ちる音にはっとして目を覚ました。日差しがあかるい。悲しいまでにあかるい。 郵便物を見にいったが、なにもなかった。車のボンネットのうえで二匹の猫が伸びたりちぢんだりしていた。 愛しています、さみしいです……。...

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静けさの復習(66)

 もしかしたらきみはもうどこにもいないのかもしれないとぼくは眠りのなかでいう。もしかしたらあなたはもうどこにもいないのかもしれないとこいびとも眠りのなかでいう。ぼくたちはまたひとつ、平凡な――それでいて決定的な――嘘をついて眠りをむさぼる。 愛しています、さみしいです、ほどほどに……。...

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静けさの復習(65)

(写真・時本景亮) 机の引き出しにボイスレコーダーがあった。いまにも電源が切れてしまいそうだったが、つかえるかどうか、ためしに「愛しています」とか「さみしいです」とか「ほどほどに」とかいろいろと吹き込んでみた。 再生ボタンを押すと、ややくぐもった声で「愛しています」とか「さみしいです」とか「ほどほどに」とかいろいろと吐きだされる。 また再生――「愛しています」「さみしいです」「ほどほどに」。 またま...

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静けさの復習(64)

 見つめあうとすぐにぼくたちのまなざしははぐれてしまう。何度もまなざしをからませようとするがだめだ。まなざしをあきらめてほほえみあってみても、それはそれで、なんのかかわりのないもののようにおたがいの目のまえで消滅してしまう。ぼくたちはきっと、じぶん勝手でわがままなのだ。ほんとうは相手のことなど一切、見ていないのだ。そういうことを知れば知るほど、なぜだろう、かえってぼくたちははなればなれになるのがこ...

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静けさの復習(63)

――これ。――これって?――これよこれ、見えるでしょう。――見えない。ぜんぜん見えないよ。 畳のうえに糸くずのようなものがあるとこいびとがいう。それはすこしずつ移動しているようでもあるし、まったく動いていないようでもあるとさらにこいびとはいう。それはみずからの意志でうねっているようにも見えるし、神様の命令で静止しているようにも見えるとなおもこいびとはいう。 ぼくは、きれいに割り箸を割ることができなかったせ...

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汽水空港リニューアルオープン

 はじめて汽水空港にいったのはたしか二〇一五年十二月だったとおもう。ぼくはちょうどそのころ紀田順一郎さんや岡崎武志さん、内堀弘さんなどの古本的エッセイを読みあさっていたし、鳥取市内に邯鄲堂という玄妙な味わいの古本屋があったこともあり、古本熱が最高潮に達していた。だからネットか新聞かなにかで「東郷池のほとりにも古本屋ができた。しかも店主がいちから建てた店らしい」と知って、ぼくのおなかのなかに住まう回...

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静けさの復習(62)

……きのう、幽霊とか亡霊とかいいあったせいだろうか。夜明けまえに意識が覚醒して奇妙な体験をした。トイレにいこうと上体を起こすのだが、枕もとにはまだじぶんが寝ている。しかたなく、もう一度横になり、起き上がる。しかし、というかやはり、枕もとにはまだまぬけな寝顔がある。まるで、そう、幽体離脱のような不可思議な現象。このままベッドを抜けだしたらどうなるのか。一生、肉体のなかに戻ることなく、この世界をさまよわ...

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静けさの復習(61)

――まずは幽霊だ、まず幽霊からはじめよう。それからクラゲへ。沖へ。月へ。 とぼくはいった。するとこいびとは存外真剣なまなざしのまま、やや首をかしげながら、――あら、河童じゃなかったの? という。河童? とぼくは訊きかえす。――もう一度、河童のように愛しあいましょう。そういう約束だったでしょう? うーん、そういう約束なんてしただろうか?...

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花房睦子さんの詩「寂寥」(詩誌『菱』202号)を読む

  静かな 手塗りのペンキに  ポストは しん と息を止める  瞬間 ポッ……トン  赤い滴 二つ  咄嗟に 記憶の中の扉が開(あ)いた  木造校舎の  放課後のお手洗い(一連) この詩のはじまりにふれ、はっと息をのんだ。一瞬、呼吸をわすれてしまった。これはぼくの勝手な推測だが、刷毛でわが家の郵便ポストを塗りかえた瞬間(あるいはほんのすこしはげたところを塗りなおしただけかもしれない。とにかく「手塗り...

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