FC2ブログ

記事一覧

わたしと亀と清志郎(25)

(絵・ひがしもとしろう) 某月某日 きょうの市場はなんとなく神話の趣をそなえていて、灰いろの霧がたちこめている。亀をさがしてさまよい歩く亡霊たちがわたしの目にもはっきりとうつる。わたしは聞こえづらい耳で、かれらの声、かれらのことばを聞きとろうとしたが、――やめなさい。みじめになるだけだ。 だれかにとがめられた。からだ全体が、ななめにかたむいている、ひどく老いた、ちいさなおじいさん――「杖」――だった。め...

続きを読む

サティ/ジムノペディ 第1番駅は、閉ざされた貝殻のように沈黙を孕んで、ゆっくりと天体の動きを確かめている。人の細胞の数は六十兆個、そのことが不思議で仕方ない。プラットホームの椅子が整合性からのがれるために熱を発し、鳥たちが新品の靴を求めて飛び立つ朝、私は果たして優しい生き物だと言えるだろうか。熟れた季節や手紙、映画のフィルム……天使の落とし物が散乱している。私の眼鏡はもう虹しか映さない。階段に、さざな...

続きを読む

わたしと亀と清志郎(24)

(絵・ひがしもとしろう) 某月某日 畑で枯れ枝をたき火にくべている密子さんと目があう。しかたなくわたしは足をとめ、大量の枯れ枝を指さしながら、――それ、なんの木の枝ですか? と、はなしかけてみた。密子さんはよく日にやけた顔からしろい歯をこぼしてひとこと、梨、とだけこたえた。なんでもむかしは梨農家だったそうだ。――お父さんも死んでしまったしもう梨をつくる元気がない。だからすこしずつ木を切っていっとるんよ...

続きを読む

アイシテイルの死

The xx - On Hold (Official Video)予鈴が鳴っても動けなかった僕は物理Ⅱの教科書を抱えたまま渡り廊下の隅っこで硬くうずくまるアイシテイルを見つけたのだちょうど梁の上のトタンが欠けていてその向こうから他の鳥たちが哀れむように見守っている、右へ左へ滑空しながらアイシテイルの嘴からはみ出ている脚が昆虫か何かの脚が、ぴくりと動くその瞬間、僕は多くの死を思い出す(路上で夏の灼熱にやられたカマキリ)(いたずらに羽...

続きを読む

チョコレート

百五十歩目で彼女はチョコレートの包み紙を解いて口に放り込む。一つ僕にもくだされ、というと、いやだ、上げない、と断られてしまった。百五十歩目でまた彼女はチョコレートの包み紙を解いて口に放り込んだ。今度は僕の口だった。...

続きを読む

わたしと亀と清志郎(23)

(絵・ひがしもとしろう) 某月某日 わたしは、清志郎を直視することができない。ずっと見つめているうちに、わたしまで亀になってしまうのではないかとおそれおののいてしまう。あるいはいっそわたしも亀になりたいと、そんなふうにこころのどこかではおもっているのかもしれない。――でも、おたがい亀だとなにかと不都合ね。 わたしとかれのあいだに、しらじらと横たわる、越えがたい壁こそもっとも大切にしなければならないの...

続きを読む

今朝見た夢(2018年5月29日)

サティ びっくり箱 (ジャク・イン・ザ・ボックス) / 高橋アキある日きこりは仕事中にあやまって錆びた斧を湖に落としてしまったすると湖面が黄金色に輝きたぶん食事中だったのだろう口もとにミートソースをつけた神様が現れた「おまえが落としたのはこの錆びた斧か?それともこの金の豚か?」と神様は言った「錆びた斧です。返してください神様」ときこりは言った「ああ、なんて正直者なんだ。この金の豚もやろう」「早速質屋に持っていき...

続きを読む

わたしと亀と清志郎(22)

(絵・ひがしもとしろう) 某月某日 わたしの机のすみっこには小型の扇風機がありぎこちなく首をふりつづけている。清志郎はどういうわけか扇風機の風をきらう。扇風機の風を浴びると、あるかなきかの慟哭の声をあげて逃げだしてしまうのだ。わたしはたまにこの小型の扇風機で清志郎をおどすことがあるが、そういうとき、ほんとうは泣きたい。泣きたくても泣けないからこそ清志郎をいじめなければ気がすまない。   * わたし...

続きを読む

ゆうぐれのマドンナ

Iggy Pop Fan Club - Number Girlきみは薬指の上でまるで指輪をまわすようにくるくると感受性をまわすゆうぐれのマドンナきみの感受性がさらなる回転をうながすときかすかにふるえる薬指の爪の先をすべり落ちるものそのものこそ長年きみが見つけようとして見つけられずにいるちいさなちいさな光の破片なのだゆうぐれのマドンナきみはできることならその光の破片で憂鬱を切り裂きたいと願っている薬指の上でまるで指輪をまわすよう...

続きを読む

君がいたころ

Satie - Je te veux君がいたころ近所のぶち猫はとんぼ返りをやめなかった木々の梢は教養そのもので水辺にそびえる小さな格言が口笛を吹くのだ僕は散らかった部屋で標榜をあるいは喜びをあるいは愛を見つけるのが上手かったしかし君はもういない一つの後悔が吹き荒れる夜に僕は決まって嗚咽を漏らすぶち猫はサイレンに狂乱し木々の梢が悲しみ故にたわむ君は知っているだろうか、水辺の涙は全て枯渇し格言が或うろんな画商によって精...

続きを読む