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記事一覧

静けさの復習(100)

(写真・時本景亮) カメラのフラッシュがたてつづけにまたたくなか、ふいに子どものころの記憶がよみがえってきた。子どものころの記憶がよみがえった、といっても、あるいはたったいま、ぼくが無意識的にでっち上げたものかもしれないけれど、けれども子どものころの記憶がよみがえったと思えたのは、なにかしらいいきざしなのかもしれない。――そう、ぼくが子どものころ。 と、ぼくはこいびとに向かってほとんど自動的に話しは...

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静けさの復習(99)

(写真・時本景亮) ぼくたちは、おたがいにびしょ濡れのまま、おたがいにたいして口もきかず、ただえんえんとまちを歩いた。商店街のどこにも人影はなく、まち全体が静寂に包まれていた。あきらかにこのまちは入り日と相性がわるい、わるかった。 はずだった。――これはいったいどういうことなのだろう。 とぼくはいった。――これはいったいどういうことかしら。 とこいびとはいった。 気がつけば数えきれないほどのひとたちが...

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静けさの復習(98)

(写真・時本景亮) ぼくはなおもつよく、せつなくこいびとを抱きしめる。ぼくはぼくを抱きしめるように。そしてこいびともまた、ぼくをつよくせつなく抱きしめる。じぶんでじぶんを抱きしめるように。 ぼくたちは、ぼくたちを抱きしめる。たった一滴の雨粒のなかに閉じ込められてもいいようにつよく、せつなく。 おたがいに相手を抱きしめれば抱きしめるほど矛盾が生じることを知っている。知っていながらも抱きしめる。 もう...

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静けさの復習(97)

 はずだった。こいびとが真顔でへんな――でたらめなフラダンスのような――動きをしていたので、――へんな動き。 といって笑うと、こいびとはなおも真顔で、――昭和の踊り。 といった。 ぼくたちは夜が明けるまで昭和の踊りを踊った。 はずだった。ぼくたちはいつものように虹のかけらにつまづきながらカフェにはいる。店内では中年男性が女性店員に向かって大声でなにかを非難していた。ほかのお客さんもずいぶんと迷惑がっていた...

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静けさの復習(96)

 ぼくたちは手をつないだまま、波のなかを転がる。 波のなかを転がりながら、ぼくは「好きだ」といった。「愛してる」とも。するとこいびとも「好き」といった。「愛してる」とも。 そんなことを意味もなくくりかえしながらぼくたちはなおも波のなかを転がる。まるで樽のようにころころ転がる。 もし明日という日が、ふたつ以上あるなら、たとえば正しい明日とか、まちがった明日とかがあるなら、ぼくたちはきっとまちがった明...

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