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記事一覧

わたしと亀と清志郎(最終話)

(絵・ひがしもとしろう) 某月某日 心臓はいたましい、いたましい磁針だ。いつだって「死」の方向しか示さない。そこから遠ざかることはできない。わたしは、そうおもうと、わけもなく、さびしい。みんな心臓のことをどんなふうにわすれてしまえるのか。あるいはどうすればわすれたふりをしてしまえるのか。 ふと、ふりかえる。清志郎が、いる。かれはにっこりとわらって、――うん、そうしようね。 と、こたえてくれた。(了)...

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わたしと亀と清志郎(28)

(絵・ひがしもとしろう) 某月某日 毎朝、目がさめるとすぐに窓をあけはなつ。そして外にむかって腕をのばしながら風の感触をたしかめる。わたしがどんなに指を動かしても風をつかまえることはできない。風はただ、あるような、ないような、あやふやなしぐさでながれていってしまうだけ。 ときどき、ふいに頭の中心がぼんやりして、しろくなって、むかしの記憶がよみがえったりすることがある。そういうときわたしは、なにもの...

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わたしと亀と清志郎(27)

(絵・ひがしもとしろう) 某月某日 鎧戸をあげきった午後の出荷場には、何人も、わたしとおなじ顔をした、それでいてわたしとは似ても似つかない、いたいたしい他人たち、よそごとたちがトラックの荷台からコンテナをおろしたりしている。わたしは吐息をつきながら、――……ほんとうに、どこも見知らない国のようね。 とつぶやいた。南側の出入り口では、「杖」がにせものの亀がまぎれこんでいないかどうか監視の目をひからせてい...

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わたしと亀と清志郎(26)

(絵・ひがしもとしろう) 某月某日 清志郎は、いい値で売れた。...

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わたしと亀と清志郎(25)

(絵・ひがしもとしろう) 某月某日 きょうの市場はなんとなく神話の趣をそなえていて、灰いろの霧がたちこめている。亀をさがしてさまよい歩く亡霊たちがわたしの目にもはっきりとうつる。わたしは聞こえづらい耳で、かれらの声、かれらのことばを聞きとろうとしたが、――やめなさい。みじめになるだけだ。 だれかにとがめられた。からだ全体が、ななめにかたむいている、ひどく老いた、ちいさなおじいさん――「杖」――だった。め...

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